もくじ
CDとは
看護師の皆さんは、日々の業務に当たる中で、
クロストリディオイデス※・ディフィシル(CD)感染症(CDI)で苦しむ患者さんを見る機会も多いのではないでしょうか。
(※かつてのクロストリジウム・ディフィシル)
単にCDとか、CDIとかCD腸炎と呼んだりしますが、抗生剤の使用に関連した腸炎のひとつで、日本語では偽膜性大腸炎と言います。
Clostridioides(Clostridium)difficile感染症診療ガイドライン(2018)では、
「2歳以上でBristol Stool Scale 5以上の下痢を認め、CDI検査にて便中のトキシンが陽性もしくはトキシン産生性のC. difficileを分離する、もしくは下部消化管内視鏡や大腸病理組織にて偽膜性腸炎を呈するもの」と定義されます。
下痢は、「24時間以内に3回以上または、平常よりも多い便回数」とされています。
「下痢3回目出た?そしたらCD検査出さなきゃだね」なんて会話もしたことがある人も多いと思います。
なお、CDは芽胞を形成するためアルコール無効ですので、石鹸による流水手洗いが基本です。
臭いと見た目からCD腸炎を見抜けるか?
「CDっぽい」とは
ところで、よく「CDっぽい/CDぽくない」と言うベテラン看護師いませんか?
「CDは臭いでわかる!」とか「緑じゃないからCDぽくない」とか、いう看護師いませんか?
または、医師に下痢の報告をしたときに「CDっぽいですか?看護師さんのほうがよくわかりますよね?」みたいなことを言われた経験ないですか?
「CDっぽさ」とはなんなのでしょうか。
本当に臭いや見た目で判断できるのでしょうか?
よく言われるのは、
「CDの便は緑色をしている」とか
「臭いがCDぽい」じゃないでしょうか。
CD腸炎の便には、有機化合物が含まれており、特有の臭いがします。
臭いを文章で説明するのは難しいのですが…ちょっと酸っぱいような…こう…強烈なヤツで…うーん一度嗅ぐとわかるんですけど……
馬小屋臭に例えられますので、東京の方は大井競馬場とか府中競馬場に行ってみると、なんとなく同じような臭い(ただし、CDはその強烈なヤツ)が体感できるかもしれません。
私は、年中鼻詰まりしていて鼻が悪いのであんまりわからないのですが、鼻がいい人は大変だなと思います。
ところで、本当に臭いや見た目でCDかどうかを判断できるのでしょうか。
結論から言えば、臭いだけ・見た目だけで、CDかどうか判断はできません。
その根拠となるものをご紹介していきます。
臭いでCD腸炎を見抜けるか?
臭いからCD腸炎を見抜くことができるかという実験を行った論文です。
Rao, K., Berland, D., Young, C., Walk, S. T., & Newton, D. W. (2013). The nose knows not: poor predictive value of stool sample odor for detection of Clostridium difficile. Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America, 56(4), 615–616.
- 18人の看護師と10個の便サンプル(CD陽性・陰性は半数ずつ)を集めて、嗅がせた
- 看護師の経験年数は1~30年で、8名の看護師が10年以上の経験年数だった
- 半数以上の看護師は、臭いでCDを見抜く自信があった
- CD陽性のサンプルは、陰性のサンプルよりも正解率が低かった
- 嗅覚に自信のある看護師は、他の人よりも正解率が低く、経験年数による差もなかった
- 正解率の中央値は45%で偶然よりも良い結果を出した人はいなかった
個人的には便のサンプルの臭いを嗅がされるのも嫌ですが、みなさんが思っているより正解率(45%)が低いのではないでしょうか?
そして、鼻に自信があっても、経験があっても結果が変わらないというのも意外ではないでしょうか。
ちなみに、感度特異度で言うと、感度26%・特異度69%です。
見た目でCD腸炎を見抜けるか?
こちらは、見た目でCD腸炎を見抜くことができるかという実験を行った論文です。
Sugimoto, H., Hayashi, K., Furukawa, K., & Mori, N. (2019). Assessment of stool color in Clostridioides difficile infection: A pilot study. Infection Control & Hospital Epidemiology, 40(7), 832-833.
- 入院患者の便をデジカメで撮影し、色調を統一した
- 84個の便サンプルが集まり、そのうち4個がCDIだった
- 便サンプルの画像を色によるスコア化を行ない解析した
- 有意差はないが、CDでない群で緑または緑がかった色の便が多かった
こちらは、日本の聖路加病院で行われた実験です。
色味の補正を行なって同一の条件にし、色のスコア化をしてみたら、CDじゃない便の方が緑っぽいという結果でした。
「CD腸炎の便 = 緑っぽい」と思っていた人も多いんじゃないでしょうか。
まとめ
臭いや見た目でCD腸炎かどうかは判断できない
「臭い(見た目)でわかる」という看護師は多いですが、臭い・見た目のみで判断するのは感度は高くなく、その情報のみで判断するのであれば偶然当たってただけな可能性が高いです。
ただし、1本目の論文の最後で、患者や便に対する看護師の盲検化が不十分である可能性を指摘している通り、ベテラン看護師も当てずっぽうで言っているわけではなく、「高齢や、PPIや免疫抑制剤の投与がある、抗生剤投与後という菌交代現象のリスクがあるなどのバックグラウンドと、突然の発熱・下痢を生じて、フィジカルアセスメントで他に考えられる原因がなくCDが疑わしい状況」という中で、「CDっぽい臭いがする」とCDらしさを押し上げてる要素を挙げているのだと思います(というか臭いだけで判断する”ベテラン”看護師がいてほしくない)。
以下のようなCD腸炎発症リスク因子を持つ患者が、 24時間以内に3回以上または平常よりも多い便回数の下痢を認めて、発熱や腹痛などの症状がある場合は、積極的にCDIを疑っていきましょう。
- 高齢
- 慢性透析患者
- 最近の入院
- 免疫抑制剤使用
- PPI使用
- 抗生剤使用
Clin Microbiol Rev. 2018 Mar 14;31(2)
繰り返しになりますが、便だけを見て「臭いでわかる」「見た目でわかる」は、信頼性に欠けます。
患者の全身を見てアセスメントすることが大事だと思います。