気になる文献紹介 スニッフィング・ポジション

スニッフィングポジションは神話か?


スニッフィング・ポジションについて。

Adnet F, Borron SW, Lapostolle F, Lapandry C. The three axis alignment theory and the “sniffing position”: perpetuation of an anatomic myth? Anesthesiology. 1999 Dec;91(6):1964-5. doi: 10.1097/00000542-199912000-00060. PMID: 10598648.

いわゆる「スニッフィング・ポジション」は解剖学的神話(myth)じゃないかと疑問を投げかける文献です。


気管挿管時の姿勢で「スニッフィング・ポジション」というのを聞いたことあるでしょうか。
看護師の方でも、挿管の介助を行ったことがあれば医師が挿管しやすいように、後頭部に枕を入れて姿勢を調節したことがるのではないでしょうか。

一般的には、「後頭部に7~10cmくらいの枕を入れ、口腔・咽頭・喉頭の3つの軸を一致させることで、挿管時の視界を確保し挿管を可能にする姿勢を、匂いをかぐ(sniffing)姿勢に似ていることからスニッフィング・ポジションという」という感じに書かれることが多いでしょうか。

看護roo!などでも、

口腔→咽頭→喉頭の軸が、自然位だとずれてしまうのに対し、スニッフィングポジションでは直線に近づくため、喉頭展開が容易になる

https://www.kango-roo.com/learning/4153/より引用

という紹介がされています。

先の文献は、「3つの軸が一致する」というのに真っ向から異を唱えるものです。
文献によれば、「3軸が一致する」とした”最初(そして恐らく唯一)の文献”では、その論拠となるX線画像が不正確であると指摘しています。

さらに著者らは、MRIの中で正常な喉頭の解剖学的構造を持つボランティアに、意識のある状態で様々なポジションを取らせる実験を行い、「スニッフィング・ポジション」のみで3軸が一致することはなく、肥満や頭部伸展が制限されている患者以外では単純な頭部伸展と比べて声門の直視に優れることはないと結論づけています。
Adnet, F., Baillard, C., Stephen, Denantes, C., Lefebvre, L., Galinski, M., Martinez, C., Cupa, M., Lapostolle, F., 2001. Randomized Study Comparing the “Sniffing Position” with Simple Head Extension for Laryngoscopic View in Elective Surgery Patients. Anesthesiology 95, 836–841.. doi:10.1097/00000542-200110000-00009


とは言え、喉頭展開が必要ないという話ではなく、口腔・咽頭・喉頭の3つの軸があるのは間違いないので、その軸のなす角度を小さくする姿勢は挿管を容易にさせるのは変わりません。
「3軸を一致させ―――」という視点から、スニッフィング・ポジションの利点を説明する必要はないのだと思います。

あとは、スニッフィング・ポジションそのものに対する誤解というか、本来のスニッフィング・ポジションは、「後頭部に7~10cmくらいの枕を入れて頭部を挙上・伸展させること」で、「肩枕を入れて頭部伸展位を取ること」ではありません。
「スニッフィング・ポジション = 挿管時の頭部伸展位」と思っている人もいるかも知れません(僕がかつてそうでした)。


用語は正しく使う、手技を正確に行うということを改めて意識していきたいと思います。