医師過剰時代に診療看護師(NP)は不要となるか? ―「ならない」と考えられるこれだけの理由

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医師過剰時代に診療看護師(NP)は不要?

近い将来、日本では「医師過剰時代」が到来すると言われています。

厚生労働省によれば、2033年頃には医療需要が均衡し、それ以降は医師の供給数が過剰になると予測されています。

こうした背景も踏まえてか、「医師が余っていれば診療看護師(NP)は不要になるのではないか?」という意見を見かけました。


私は不要論には懐疑的で、医師数が増加しただけでは、現在の医療制度が抱える課題を解決することは難しいため、診療看護師(NP)は不要にならないと考えています。

本記事では、いち診療看護師(NP)としての私見ですが、医師過剰時代においても診療看護師(NP)が果たす重要な役割について探ります。

医師数増加だけでは解決しない医療の課題

看護師の数が入院患者数を制限する因子になる

病院の主な収入源の一つは入院基本料です。
入院基本料は、患者対看護師の数によって決められます(7:1とかのあれです)。

つまり、入院できる患者の数は主に看護師の数で決まることになるので、医師数だけを増やしても、それと比して病院の収入は必ずしも増加しません。

医療の質向上とコメディカルの必要性

さらに、現代の高度化・専門化した医療の質を向上させるためには、看護師・薬剤師・技師・各療法士・栄養士などのいわゆるコメディカルスタッフの役割は欠かせません。

したがって、いくら医師が余っていたとしても、単純に医師の数だけを増やすインセンティブは限定的で、病院が余剰医師をすべて雇うというのは考えづらいでしょう。

医師の診療科と地域の偏在問題

医師の診療科と地域の偏在問題も深刻です。

現状では医師の自由意志に基づいて診療科や勤務地が選択されます。
人気の低い診療科や地域では医師不足が継続する可能性があります。

医学科に「地域枠」の設置など、地域の偏在については解消に向けて動きはありますが、診療科については何らかの強制力を働かせない限り偏在は免れないと考えられます。

勤務医はやっぱり増えない

偏在は免れないとなると、医師過剰時代でも人気のない科は人手が不足し、逆に人気の科は上述のように雇用のインセンティブは限定的であり雇い止めになるでしょう。

では、余った医師はどうなるか?
暴論ですが、医師は病院に務められなくても開業できます。
シンプルに考えれば、開業医が増えるでしょう。

結局、医師過剰の時代でも、余った医師の多くは開業医となり、勤務医不足の解消には直結しないでしょう。

医師過剰時代に診療看護師(NP)が果たす役割は?

勤務医不足が解消されない状況下で、診療看護師(NP)の果たすべき役割はいくつか考えられます。

医療資源の適切な配分

診療看護師(NP)は、医療資源の効率的な配分に貢献できる可能性があります。

例えば、救急の場面において診療看護師(NP)が軽症患者の初期対応や検査、処置などを担当することで、医師はより重症な患者の診療に専念できます。

また、外来診療でも、診療看護師(NP)が単純な処置や慢性疾患の管理を行えば、医師の診察時間を短縮し、単位時間あたりの患者数を増やすことができるかもしれません。

医師より低いコストの診療看護師(NP)は、経営者にとってはメリット

医療資源の適切な配分に加え、診療看護師(NP)の活用は医療コストの適正化にも寄与します。

前述のように、病院では医師の増員が難しい一方で、医師を雇うよりコストの低い診療看護師(NP)の雇用にはインセンティブが働く可能性があります。

医療資源の配分との相乗効果で、低いコストでより多くの患者を診られれば、経営者にとってメリットになるでしょう。

医師過剰時代でも「チーム医療」は無くならない

さらに、医師過剰時代であっても高度化・専門化が進んだ医療に、多職種との連携によるチーム医療が重要であることは変わらないでしょう。

診療看護師(NP)は、医師と看護師の中間的職種として、多職種連携のチームにおける調整役を担うことができます。

「どっちの言う事も分かる」というのは中途半端な言い方ですが、医師と看護師の両方の視点が分かるというのはチーム医療にとっては重要です。

地域医療の充実

地域医療の観点からも、診療看護師(NP)は重要な役割を果たし得ます。

医師不足地域におけるプライマリ・ケアの提供や慢性疾患管理など、診療看護師(NP)は地域医療の隙間を埋める存在として活躍が期待されます。

医師がいないような地域に診療看護師(NP)が行くのか?という問題はありますが、そもそもアメリカでnurse practitionerが生まれたのは医師不足がきっかけであるという歴史に鑑みれば、否定はできないのではないでしょうか。

診療看護師(NP)は看護の専門性を高める

ここまで論じてきてから言うのはフェアではないですが、診療看護師(NP)は医師不足を補うため「だけ」にいるのではありません。
もちろん、そうした側面があることは否定しませんが。

医師数が増加しても、看護師の役割がなくなるわけではありません。
診療看護師(NP)は、看護師の専門性を追求し、エビデンスに基づく高度な実践基盤の構築を推進する牽引役となる役割は、医師過剰時代であっても必要となるでしょう。

過剰な医師は看護師の役割を担うか?

診療看護師(NP)が医師の役割の一部を担い、医師不足解決の手段のひとつとしての側面もあるため、医師過剰時代となったら診療看護師(NP)は不要になるのではないかと不安に思う人もいるかもしれません。

逆に医師があまりに余剰となり、看護師不足が続いていた場合、医師は看護師の役割まで担ってくれるでしょうか?
そうした未来は想像しにくいでしょう。

「医師不足時代」の働き方とは変化するかもしれませんが、医師と看護師あるいは診療看護師(NP)がそれぞれの専門性を活かし、親和的に協働することで、より質の高い医療を提供していきたいものです。

まとめ

私は医師過剰時代が到来しても、診療看護師(NP)は医療の質と効率性を維持する上で重要な役割を担い続けると考えています。

具体的には、医師数の増加だけでは解決できない医療制度の課題に対し、診療看護師(NP)は医療資源の効率的配分、医療コストの適正化、チーム医療の推進、地域医療の充実、看護の専門性の向上など、多面的な役割を果たすことができるでしょう。

医師と診療看護師(NP)がそれぞれの専門性を活かし、協働することで、より質の高い医療提供体制を構築していくことを切に願っています。

サムネのイラストはChatGPTで作成してみました。