COVID-19の世界的な大流行(パンデミック)で、2020年のほかに集中治療室(ICU)や人工呼吸器が注目された年は無いでしょう。
しかし、ICUの始まりはどんなものだったか知っているでしょうか。
実は、ICUとパンデミックとは切っても切れない縁があるのです。
1950年代にポリオがデンマーク・コペンハーゲンで大流行しました。
ポリオは「小児麻痺」とも言われるように、ポリオウイルスが神経を侵すことで麻痺などの症状を起こす疾患です。呼吸筋が麻痺すれば、呼吸ができなくなるので人工呼吸器が必要となります。
その際に、人工呼吸器が必要なポリオ患者を一箇所に集めて管理しようとする施設を作ったのが、今日のICUの始まりと言われています。
つまり、重症の患者をバラバラに管理するのではなく、一箇所で一元化し一括管理すること、というのがICUの始まりになる理念なわけです。
ちなみにこれが、同年代のポリオ患者の「集中治療室」です。
円柱形の装置は「鉄の肺」と呼ばれる当時の人工呼吸器です。
鉄の肺の仕組みは、患者を装置から首だけ出した状態で密閉し、装置の中を陰圧にすることで胸郭を広げ、胸腔内を陰圧にして空気を取り込むという形です。
「鉄の肺」は陰圧式の人工呼吸器であり、現代の一般的な人工呼吸器の仕組みである、気管内にチューブを入れて圧をかけ胸腔内へ酸素を送り込む方式(陽圧換気)とは、原理が異なることがわかると思います。
そして、このポリオの流行で、「鉄の肺」が不足したことが、現代の人工呼吸器の主流である陽圧換気法の普及につながったと言われています。
鉄の肺の不足により、下の写真のような気管切開+バッグ換気という方式が採用されました。
しかし、当時は機械式の換気装置はなかったので国中の医学生や看護学生が導入され、バッグを手押しして換気を行ったと言われています。
これらにより、その後の陽圧式人工呼吸器の開発や、呼吸生理学の発展につながっていきました。
ポリオの流行は不幸な出来事ですが、ICUや人工呼吸器といったその後の医療の発展につながっていったことは間違いありません。
COVID-19のパンデミックを超えた先には、どういった発展が待っているのでしょうね。
願わくば、十数年後に、「COVID-19は不幸だったが、○○のきっかけになったのは良かったことだった」と言えるような社会でありたいものです。