こうした疑問は、クリティカル領域の看護師のよくある疑問ではないでしょうか。
病棟の看護師として働いていたときも後輩からよく質問されましたが、診療看護師(NP)として病棟の看護師と話していてもよく話題になります。
「A-lineの血圧が低いけど、『実測』で測ってダイジョウブだったので様子見てます」とか、「血圧、上が80なんですけど、どうします?」というようなアブナイ報告も受けます。
血圧が低い時のNIBP(非観血的血圧測定)は本当に「大丈夫」かわからないぞ!
低血圧が懸念なら「平均血圧」を気にしてくれ!
そもそもNIBPを「実測」というのはなぜだ!?
と、声を大にして言いたいことが多いのでここにまとめておきます
どうしても長くなってしまうし、歴史や血圧測定の原理の部分は興味ない人もいると思いますので、適宜内容を分割しています。
興味のあるところから読んでいただければと思います。
INTENSIVIST 3巻2号 (2011年4月) 特集「モニター」
を大いに参考にしています。
もっと詳しい内容に興味のある方はぜひ読んでみると良いと思います。
そもそも血圧とは?
看護師1~3年目くらいの方にもわかるように説明していきます。
「常識だよそんなの!」という人は読み飛ばしてください。
「血圧」とは、心臓から送り出された血液が血管壁を押す力(圧力)です。この圧力は、2つの主要な要素によって決まります。
それは、末梢血管抵抗と心拍出量です。
【血圧】 =
【末梢血管抵抗】 × 【心拍出量】
なお、【心拍出量】は、心臓が1回に送り出す血液の量(1回拍出量)と、1分間に何回送り出すか(心拍数)によって決まるため、
【血圧】 =
【末梢血管抵抗】 ×
【1回拍出量】 × 【心拍数】
と表すこともできます。
これらの要素の増加/減少によって血圧が上がったり、下がったりするわけです。
末梢血管抵抗は、体の末梢(手足や臓器などの末端部分)の血管にかかる抵抗の度合いを表します。
末梢血管抵抗が高いと血液がスムーズに流れないので、高い抵抗に打ち勝って血液を送るために送り出す圧力が上昇します。
末梢血管抵抗は、血管の直径や血管壁の弾性などに影響を受けます。
心拍出量は、心臓が1分間にどれだけの量の血液をポンプできるかを表します。
心臓が収縮して血液を体中に送り出すとき、一度に拍出される血液の量が増えると、血圧も上昇します。
心拍出量は、心臓の収縮力や拍動の頻度によって制御されます。
一度に拍出される血液の量は同じでも心拍数が上がると血圧も上がります。
例えば、急性の出血の場合、出血で血液が失われ低下した一回拍出量を補うために、身体の恒常性が働き心拍数が上昇することで血圧を保とうとします。
この場合、血液の30% (約1L)以上が失われないと血圧は低下してこないと言われます。
「出血が疑われるけど、血圧が保ててるから大丈夫」というアセスメントは全然大丈夫じゃありませんよ。
血圧は「3つ」ある
収縮期血圧と拡張期血圧は、非医療者の人も含めて広く一般に知られているかと思います。
しかし、医療者にとっては、もう一つ重要な血圧があります。
それは平均血圧です。
収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧。
この3つが、それぞれどういう意味のある血圧なのか見ていきましょう。
収縮期血圧と拡張期血圧
収縮期血圧は「上の血圧」として知られるように血管内の最大の血圧です。
血管への負荷や心血管疾患のリスク評価に重要です。
拡張期血圧は「下の血圧」と言われる通り最小の血圧です。
冠動脈への血流は拡張期に流れます。拡張期血圧が低いと冠動脈への血流が不足し、心筋に酸素や栄養の供給が低下して虚血性心疾患を引き起こすリスクが高まります。
山陽新聞のMEDICIAに血圧のイメージが良くまとめられています。
拡張期血圧は、血管の弾性(柔らかさ)による血圧です。
順序が図と逆になりますが、bのように弾性のある血管であれば、収縮期に血管が膨らんだ分の血液がプールされていて、拡張期になると血管の弾力によって貯留された血液が流れます。
これが拡張期血圧であり、弾性のある血管であれば拡張期血圧は高くなります。
一方、cのように動脈硬化で弾力を失った血管は、収縮期に貯めることができる血液の量は少なくなります。多くの血液が収縮期に流れていくので、収縮期血圧は高くなり、拡張期血圧は低くなります。
極端な話ですが、図のaのように血管がガラス管でできている場合、収縮期にガラス管が広がることがないので拡張期に流れる血流はなくなり、拡張期血圧はゼロになります。
平均血圧
収縮期血圧・拡張期血圧に比べて
やや影の薄い(?)「平均血圧」とは何でしょう。
平均血圧は、
平均血圧 =
拡張期血圧+(収縮期血圧-拡張期血圧)÷3
で求められ、心臓以外の臓器への血流に関与します。
こちらも山陽新聞のMEDICIAにイメージが良くまとめられています。
ダム(心臓)から水(血液)がドッキンドッキンと拍動して放流されています。太い川(血管)から枝分かれを繰り返して細い水路(血管)を水が流れ、拍動は次第に弱くなり最後に水田(細胞)に到達したときは一定量の水が流れます。このように、末端の細い血管には拍動のない常に一定の圧力がかかります。これが平均血圧です。
https://medica.sanyonews.jp/article/4523/
脳還流圧や腹部臓器還流圧も平均血圧を用いて計算されます。
「血圧が低い」ことは、本質的には臓器への血流が保たれないことが問題となるので、収縮期血圧よりも平均血圧の方が重要です。
敗血症の際に
「平均血圧65mmHg以上を保つ」という目標は、クリティカル領域であれば皆さんによく知られていることかと思います。
普段の看護で平均血圧をどのくらい意識していますか?
まとめ、次回は血圧測定の歴史と、A-line・NIBPの測定原理について
今回は、「そもそも血圧とはなにか」という話から始めました。
今回のまとめです。
・血圧 = 末梢血管抵抗 ✕ 心拍出量
・平均血圧 = 拡張期血圧 + (収縮期血圧 – 拡張期血圧)÷3
・平均血圧は臓器還流の指標
次回は血圧測定の歴史と、A-line・NIBPの測定原理についてです。
「A-lineの血圧がやたら高いんだけど…」
「A-lineと『実測』の血圧が違うけどどうしたらいい?」
「NIBPのことを『実測』というのはなぜ?」
「A-lineとNIBPはどっちのほうが正確なの?」
「A-line入ってる人でNIBPも測らなきゃいけないのはなぜ?」