NPって何?(米国編)

みなさんは「NP」とか「ナース・プラクティショナー」って聞いたことありますか?
あるいは、「特定行為研修」「特定看護師」「診療看護師」といった言葉は聞いたことがあるでしょうか?

「聞いたことはあるけど、何かはわからない」という人が多いのではないでしょうか。
この記事はそうした方を対象に書かれています。

NPや特定行為研修や診療看護師に興味がある、あるいは知らなかったけどこういう仕事もあるんだと思ってもらえれば幸いです。

この記事ではまず米国のNPについて説明していきたいと思います。
なお、特に断りがない場合、本記事においては「NP」とは米国のNPのことを指しています。

NPとは

Nurse Practitioner(ナース・プラクティショナー)

高度な教育・トレーニングを受け、医師のsupervisionの下で一定の医療行為を行うことのできる上級看護職(advanced practice registered nurse :APRN)のことです。

APRNと言われる上級看護職には、NP以外にもCNS(clinical nurse specialist)や助産師・麻酔看護師(Certified Registered Nurse Anesthetist :CRNA)が含まれています。
一定以上の経験のある看護師が大学院に進学することで、教育やトレーニングを受けることができます。

日本でもそうですが、多くの国では「医療行為を行えるのは医師だけ」と決められています。
しかしNPは、医師と看護師の中間的役割(mid-level-provider)として、一定レベルの診断や処方などの治療行為を行います。

ちなみに、日本においては看護師の職務はみんな大好き保助看法に

傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行う

保健師助産師看護師法第5条

と定められています。国試で覚えるやつですね。
なので日本では、「診療の補助」をどこまで含めるかというのが議論になるわけです。

どんなことができるの?

米国では州によって規制が異なります。

州による規制の違い

下の図は、全米NP協会(AANP :American Association of Nurse Practitioners)のサイトから引用したものに私が一部加筆したものです。

米国NPの実践の規制

https://www.aanp.org/advocacy/state/state-practice-environmentより引用し一部加筆

(2021年4月19日アクセス)


全てNPの責任で行える州と、医師の監督が必要な州など週により異なります。
緑色の州は、最もNPに権限があり、緑色黄色赤色の順に医師の監督が必要などの制限が加わっていきます。

この規制は、
病院で働くNPだけでなく、NPがクリニックを開業する際も同様です。
(そもそもpractitionerは「開業医」の意味)

業務内容

細かい規制は州によって異なりますが、AANPが公開しているNPの行える主な業務内容については、

  • 検体検査やX線検査のような診断的検査のオーダーや、その実施、結果の解釈
  • 糖尿病・高血圧・感染症・外傷などの急性期および慢性疾患の診断と治療
  • 内服の処方
  • 患者の全体的なケアの管理
  • カウンセリング
  • 疾病予防・健康・ライフスタイルについての教育 …etc

要は「手術以外は何でもできる」なんて言われたりします。
しかし、具体的には州による規制・病院のルール・専門分野…様々な規制があり、必ずこれが全てできるというわけではないようです。

専門分野

冒頭でも触れましたが、NPになるには大学院に進学する(修士号を取る)必要があります。
そして、大学院に進学する段階で専門分野が決めなくてはなりません。
そのため、一度専門性を決めたら変えることはできません。

AANPの認める専門分野には以下のような分野があります。州によって認められている分野が違ったりするそうです。

  • 急性期 (Acute Care)
  • 成人 (Adult)
  • 家族 (Family)
  • 老年 (Gerontological)
  • 新生児 (Neonatal)
  • がん (Oncology)
  • 小児 (Pediatric)
  • 精神 (Psychiatric/Mental Health)
  • 女性の健康 (Women’s Health)

参考:Nurse Practitioners in Primary Care

アメリカでNPが誕生した経緯は別の記事で述べますが、医師不足・医師の専門医志向等により、地域での初期診療(プライマリーケア)にあたる人材が不足したことに要因があるとされています。
上の専門分野の中で、最も数が多いのは家族看護(Family Nurse Practitioner : FNP)で、全てのNP資格保有者の約半数を占めます。

予防的・全体的な視点を持ち、「じっくりと話し合うことができる」ことが、NPがプライマリーケアに関わる上での利点だと言われています。

参考:9 Things to Know About Nurse Practitioners

どれくらいいるの?

米国看護大学協会(the American Association of Colleges of Nursing :AACN)によれば、米国の正看護師(registered nurse :RN)を持つ人数は、約380万人います。
そのうち約320万人ほどが働いているそうです。
さらにそのうちで、NP資格保有者は約29万人(2021)います(参考)

一方、
日本の厚生労働省の統計(2018)では、就業している看護師は約120万人です。
一般社団法人日本NP教育大学院協議会の認定する診療看護師(NP)の数は、487人(2019)です。

米国の人口が約3億人で、日本の1億人ちょっととおよそ3倍なので、看護師の人数では人口比と大きく離れてはいませんが、NPの数では大きな差がありますね。

歴史も制度も教育機関の数も異なるので、日本がまだまだ少ないのは当然といえば当然ですが、それにしても米国のNPの数多いな…。

NPのこれから

需要とおカネの話

2021年時点で、米国のNPは約29万人いると上で書きましたが、これから更なる需要増が予測されています。
米国労働統計局によれば、2026年までにNPの需要は30%以上増加し、求人は5万人以上増えることが見込まれています。(参考1)(参考2)

2020年のNPの収入の中央値は年収11万ドル(参考)です。
日本円では、年収1200万円といったところでしょうか。
米国での全職業の収入の中央値が約4万ドルなので、NPは高給な職業と言えるでしょう。

需要増と相まって、今後はさらに収入が増えることが予想されます。

教育機関の話

NPはその制度の開始以来、修士過程(2年)で教育を受ける必要がありました。
しかし、北米看護大学協会(AACN)は2004年に、NPの教育課程は3~4年の博士課程(doctor of nursing practice :DNP)に移行することを推奨しました。
その理由は、NPは高度な教育や訓練を受けた他の医療職と働くことが多いこと、一般の看護師に教育的な関わりができるようになることが挙げられています。
その中で、NPの職業として専門性を高めることで独立性や自律性を確保することも目的のようです。

一般的に「博士課程」というと研究が主体のイメージがあるかもしれませんが、AACNによればDNPは研究よりも実践をメインとした実践的博士課程(practice doctorate)であるとしています。
参考:DNP Fact Sheet

AACNは当初2015年までにNP教育をDNPに移行することを目標としていましたが、多くの州ではNPを取得するための条件は修士号となっておりDNPは明記されていないのが現状のようです。

患者の予後に看護師の経験年数は関係なく高度な教育を受けた看護師が多いほど死亡率が下がる(参考)という論文もあるので、高度な看護師教育と良いケアの関連を考えれば、看護師教育の高度化は質の高い医療の提供を目指す上では必要なことです。

まとめ

  • 米国ではナース・プラクティショナー(Nurse Practitioner : NP)と呼ばれる上級看護職が存在する
  • NPになるためには大学院で学ぶ必要がある
  • NPは、患者の指導から、検査のオーダー、処方など看護をベースとして治療的な介入まで行う
  • NPの需要は今後も高く、米国において将来有望な職のひとつ