サラダチキン、美味しいですよね。
高タンパクで低カロリー。
筋トレしている人にはもちろん、私のようなお腹のお肉が気になってきた人にも最適な食材です。
そして何より、サラダチキンの材料の鶏むね肉は安くてお財布にも優しいです。
鶏肉は火を通さないと食中毒が怖いですが、鶏むね肉は火を通しすぎるとパサパサしがちという悩みもあります。
しかし、低温調理ならばしっとりなサラダチキンを安全に作ることができます。
そこで今回は、低温調理で美味しいサラダチキンを家庭で作ってしまおうというお話です。
ただし、低温での調理ですので、不十分な加熱や調理時間は食中毒につながることになりかねません。
ただ作るだけでなく、evidence basedで低温調理に必要な温度と時間を決めていきたいと思います。
そもそも、なぜ鶏むね肉はぱさぱさになるのか
鶏むね肉がぱさぱさになる主な原因は、肉の保水力の低下です。
肉の保水力は、調理の温度・時間などの調理方法だけでなく、肉の部位やpHなどにも影響を受けます。
ぱさぱさと部位の関係
例えば、肉の部位ごとに見てみましょう。
お肉には赤っぽいお肉(赤筋)と、白っぽいお肉(白筋)があるのは聞いたことがあると思います。
下に赤筋と白筋の違いをまとめてみました。
鶏むね肉やささみ肉は主に白筋です。
白筋には筋肉の栄養源としてグリコーゲンが多く含まれていますが、生命活動が終了した後はグリコーゲンは乳酸に分解されます。
発生した乳酸で筋肉は酸性に傾き、筋肉の中の微細なタンパク質構造は破壊され、その結果として肉は保水力を失うことになります*1。
もともとの保水力も少なく、更に乳酸の原因となるグリコーゲンを多く含む鶏むね肉やささみ肉はぱさぱさになりやすいお肉だと言えるでしょう。
ぱさぱさと温度の関係
今度は温度を見てみましょう。
高温はタンパク質の変性を引き起こすために筋肉繊維の構造を破壊し、細胞内の水分が外に出てきます。(お肉を焼くときのジュ~ってなるあれです。要は「肉汁」)
調理中に失われるお肉の中の水分のことをcooking lossと言います。
では、どのくらいの温度で調理すれば、お肉内にある水分を保ったまま調理できるのでしょうか。
45~60℃までは比較的緩やかですが、60~65℃あたりで角度が急になり、65℃を超えるとほぼ温度と比例するように水分喪失割合が上がっていくことがわかります。
ここから、65℃を超えずに調理することで、肉中の水分の喪失を抑えてパサパサにならずに仕上げることができるとわかりますね。
低温調理の優れている点は、その温度をキープして食材を調理することができるところにあります。
ただし、殺菌を理由として、低温調理では55℃以下での調理は推奨されません。
個人的には、調理器の温度計や調理中の肉に±1℃程度の誤差があることを考慮すれば60~65℃が安全なのではないかと思っています。
ぱさぱさと筋原繊維の関係
さて、お肉の性質から「65℃を超えなければ肉の保水力の低下は少ない」ということを導き出しました。
ただし、お肉の硬さを決めるのは保水力だけではありません。
お肉を構成するタンパク質である、筋原線維やコラーゲンの熱による変性や凝固も関わってきます。
つまり、適切な加熱によって筋原線維やコラーゲンを変性させれば柔らかく、加熱し過ぎにより凝固してしまうと固くなるということです。
なお、筋原線維にはアクチンとミオシンが含まれており…という話は、この辺でしているのでご参照いただければと思います。
説明を省略すれば、筋原線維のうちミオシンを変性させ、アクチンを変性させない温度が、筋原線維から見た最適の温度と言えます。
ミオシンは約50~60℃程度
アクチンは約67~73℃程度
で変性すると言われています。
下は、肉に熱を加えた際に何度でどのくらい変化が起こるかというのを表示する典型的な熱曲線のグラフになります。
温度を上げていくとA・B・Cと3峰性に反応が進んでいきます。
Aはミオシン
Bはコラーゲンや血漿タンパク質
Cはアクチン
の変性がそれぞれ対応します。
コラーゲンは65℃を超えると変性し始め、70~75℃でゼラチン化し始めます。
ゼラチンとなっていないコラーゲンは硬く、そして密な構造を取るため、お肉はギュッと縮こまり、肉中の水分は押し出された結果ぱさぱさで硬いお肉が出来上がります。
霜降り肉のように脂肪が多いお肉であれば、水分が抜けてぱさついても油でコーティングされるのでしっとり感はでますが、鶏むね肉には脂肪は少ないのでそうはいきません。
なお、コラーゲンを完全にゼラチン化しようと思うと、数時間~数日(!)必要です。
(「弱火でじっくりコトコト…」というやつです)
幸いなことに鶏むね肉にはコラーゲンは少ないのでそこまで時間を掛ける必要はありません。
下は鶏むね肉の熱曲線のグラフになります。
1つ目の「肉の典型的な熱曲線」と異なり、Bのコラーゲンや血漿タンパク質の部分の山が小さく、ほぼ2峰性となっていることがわかります。
ミオシンが十分変性(A)し、コラーゲンは変性させない(B)、60~65℃程度が最適と言えそうです。
お肉の保水性から見ても、筋原線維から見ても最適なのは60~65℃あたりになります。
もっとも、両者は同じことを違う角度から見ているだけなので、同じになるのは当たり前といえば当たり前なのですが。
なお、鶏むね肉はもともとコラーゲンが少ないですが、そのコラーゲンは皮の部分や、お肉を覆う膜(筋膜)に含まれています。
サラダチキンを作る際には皮を取るついでに、できる限り膜も取ってしまえばよいのです。
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